After The Long Viewing 3

ミラー: ボス。英語株の声帯虫について報告があった。またしても妙な事態だ。

スネーク: 英語株は全部焼き尽くしたんじゃないのか?

ミラー: また、例のウィッカーマンだ。密かに英語株を手に入れ、自分の目的に使おうと研究していたようだ。 実は、その研究成果を、北米一体にばら撒いてしまったらしい。

スネーク: なんだって!?

ミラー: 俺も聞いたときは驚いた。だが、これは人類滅亡の危機と言うわけじゃない。そして、そのばら撒かれたものは、英語株でも、もはや声帯虫でもない。 ウィッカーマンが研究の末に作り出したものは、声帯虫を一つの要素とした、自然と科学技術のハイブリッドだ。まあ、コードトーカーの研究の延長線上と言ったところか。 それは『因果応報虫』というらしい。

スネーク: 因果応報虫……

ミラー: 声帯虫を元にしたそれは、二つに分かれている。『因果虫』と『応報虫』だ。この二つは別々の場所にあるが、科学技術と、サイファーが世界に張り巡らせた電子ネットワークで結ばれている。北米にばら撒かれたのは、『応報虫』の方だ。 そしてこの虫は、人の声帯に寄生しない。だからもう別物だ。 自然が作り出したものを科学技術が補った、超高精度の音声認識装置といったところだ。 サイファーは、アメリカ国民を無差別に選別し、彼らにある薬品を投与した。それは、『応報虫』が分泌する物質、発する信号を感知し、特定の言葉を好んで使うようにする、と言うものだ。 そして、その特定の言葉を決めるのは『因果虫』の方だ。 その『因果虫』がどこにあるかというと、これもアメリカだ。 アラスカ、フォックス諸島沖にシャドーモセスという名の島がある。 ここに、サイファーが何かを建設しているらしい。

スネーク: 何か?

ミラー: 今はそうとしか言えない。諜報班が入手した情報を総合してもだ。 どうにも妙なんだ。そうだな、俺が情報を得た順序と、考えを巡らして得たものを順に話そう。 サイファーが作るなら、生半可なものじゃない。 だが、その建設予定の施設は随所にずさんさが見えた。 一体これは何なのか。そして調査を進めた。 そして、ウィッカーマンの仕掛けが明らかになった。恐らくそれも、一部だろうが。その施設の随所に見られる、ずさんさや隙と呼べるものは、巧妙な偽装だ。計画では、ありとあらゆる場所に隙間なくセンサーの類が仕掛けられ、24時間、365日監視される。 そして、そのセンサーが情報を中枢サーバーに送る際の中継点、ハブとなっているのが『因果虫』だ。 つまり、こういう事だ。その島の施設で人々が交わした言葉、行為がそのままアメリカ本土で起こる。 極端な話だが、その島で『戦争は正義だ』なんて言葉が交わされれば、それがアメリカ各地で発言され、『核を廃絶しよう』という言葉が交わされれば、それがアメリカ各地で発言される。 今解るのはこんなところだ。

スネーク: それは、一体何なんだ? ウィッカーマンはそんなものを作って一体何をしようと……

ミラー: ここからは、すべて俺の憶測だ。その上で聞いてくれ。 とるに足らないと思ったら、聞き流してもらっていい。

スネーク: ああ。

ミラー: この、ウィッカーマンが行っていることは、どうにもサイファーやアメリカのためとは思えない。探れば探るほど目的が見えなくなっていく。 だが、それがヒントだったようだ。ウィッカーマンがやろうとしているのは、バランスをとるということじゃないか。そんな風に思えたんだ。 世界各地の戦場で、力を振るう者からそれを奪い、虐げられてきた者たちに 生きる権利、その上で得た力を行使するか機会、その選択の自由、それらを与える。戦争を止めようというのではない。言うなれば、暴力のバランスをとる、と言ったところか。 そんなことを考えていた時だ。あいつの顔が浮かんだ。イーライだ。 生まれる前から呪いを込められ、生まれた後には『誰か』になることを迫られた。そして、復讐の胸にたどり着いた『誰か』は別人だった。 そんなやり場のない怒りをため込んだイーライが、もしも、その島で報復心を解き放ったとしたら。 イーライの咆哮は、世界中に刻み付けられる。言葉や記録には残らなくても、時代の歩みに確実に脈打ち続ける。 ウィッカーマンはイーライの苦しみに見合う何かを残そうとしているんじゃないか? そんなところだ。すまない、長々と……

スネーク: いや。だがお前、ずいぶんとイーライに肩入れしているようだな。 子供の時の自分と重なるってくらいじゃ無いように見えるぞ。 ミラー: まあ、俺と同じ金髪だからな。ボスはずっとバンダナだったから、 あいつにはサングラスが似合うんじゃないかと思った。それくらいさ。 (了)

Score of Infinite Symphony

色々とまとめたもの

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